(アジソン病)
副腎皮質機能低下症、別名アジソン病。
前回の僧帽弁閉鎖不全症に引き続き聞きなれない病気。
しかも、今回はそうそう見る病気でもありません。
今回、この病気を取り上げたのは、そうあなたのためです。
数少ない常連さんは大事にしないとね^^
そもそも、副腎皮質ってなんや?
一般的にはあまり知られていない臓器でしょう。
位置的には左右の腎臓の少し上あたりにある、豆粒ぐらいの大きさの臓器に副腎と言うものがあります。副腎は髄質(リンゴの芯みたいなもの)と皮質(身と皮かな)に分けられ、その皮質の部分を副腎皮質と言います。
体の臓器の中では小さなものですが、非常に重要な働きをしています。
副腎とは様々なホルモンを分泌する臓器で、髄質からはアドレナリンが出たり、皮質からは糖質コルチコイド、電解質コルチコイドが分泌されます。
と名前を書いてもどんなものかわからないでしょう。一般的に言う『ステロイドホルモン』って言うのが糖質コルチコイド(コルチゾール)って言われるもので、炎症を抑えたり血糖値をあげたり、蛋白を合成したり・・・その他様々な作用をして、体をストレスに対抗させる、元気にするホルモンです。
電解質コルチコイド(アルドステロン)は、電解質(イオン)のバランスを整える働きがあります。体の中には色んなイオンが溶けていて、様々な働きをしています。多すぎてもあかんし、少なすぎてもあかん。イオンは重要な働きをしています。そのイオンバランスを整える働きを担っているのが電解質コルチコイドです。
さて、またまたつたない絵。そしてなんとも説明しがたい図。
ま、参考程度にしてください。
この図で何を説明したかったかと言うと、副腎皮質から出るホルモンは、副腎が自分で考えてホルモンを出しているのではなく、脳の下垂体と言う所と協力しながら、ホルモンを出す量を調節していると言う事です。
ACTHとは『副腎皮質刺激ホルモン』と言うホルモンで、副腎皮質に『ホルモンを出せ』と言う命令をします。その命令を受けて副腎皮質からコルチゾールやアルドステロンが分泌されるわけです。でも、そのまま出っ放しではいけないので、ブレーキをかけるのが、副腎皮質から出たホルモンです。上の図で『負のフィードバック』と書いたのが、命令が来て副腎皮質から出たコルチゾールが今度は下垂体へ『もうACTHを出さないで』と命令を出します。
このように、お互いが命令を出し合って、上手く出過ぎないように調節されています。
ちょっと小難しいお話しでしたね。
病気的にもなかなか難しい病気なのです。
さて、副腎の働きはなんとなくわかりましたでしょうか?
つまりはホルモンを出しているということです。
では、副腎皮質機能低下症とは・・・。読んで字のごとくですね。副腎皮質の機能が低下する、つまり、副腎から出るはずのホルモンが出なくなる、もしくは少なくなる病気です。
ちなみに、副腎皮質機能亢進症と言う病気もあります。こちらは副腎の働きがバカになって、ホルモンが出すぎる病気です。別名クッシング病といいます。こちらは比較的よく見る病気です。
話しを副腎皮質機能低下症に戻して・・・
では、ホルモンが少なくなるとどうなるのでしょう?コルチゾールが減るとストレスに対して弱くなるし、アルドステロンが減ると、体内のイオンバランスが崩れてきます。
通常はあまり激しい症状は出ないですが、そのままにしておくと命にかかわるショック状態に陥る事があります。
ちなみに、そうそう見ることがないと書きましたが、手元の資料では『10万頭中36頭に発生する』とあります。つまり0.036%ってことですね。珍しい病気です。
では、なぜ副腎皮質の機能が低下しちゃうんでしょうか?
その原因は大きく2つに分類されます。
@特発性副腎皮質機能低下症
特発性とは特に原因なくみたいな意味です。簡単に言うと、原因不明ってことですね。
A医原性副腎皮質機能低下症
医原性・・・医療が原因でってことです。これは上に書きましたクッシング病の治療の過程で、出過ぎるホルモンを少なくするために副腎を壊す薬を飲ませるのですが、薬の量が多すぎて逆にホルモンが少なくなりすぎるため起こる、という事です。
さ〜て、お次は症状です。
実は、この副腎皮質機能低下症、なかなか厄介な病気で、これといった症状がありません。
それでもあえて書くなら、下痢、嘔吐、震える、食欲不振、体重減少、多飲多尿・・・などでしょうか。
上のほうで書きましたが、10万頭中36頭ぐらいしか発症しない病気なので、まず疑うって言うような病気でもないですし、さらに、このような特に特徴のない症状しか出ません。
多飲多尿が出ていれば血液検査もするでしょうが、下痢や嘔吐、多少の食欲不振では意外と対症療法で様子を見ることも多いでしょう。
一般的な血液検査での異常では、貧血、脱水、軽度の高窒素血症、そして低ナトリウム高カリウムがあります。最後の低ナトリウム高カリウムがある程度特徴的といえば特徴的ですかね。
はっきり言って、上のような下痢をしたり多少食べない、っていう時期にこの病気を疑う事はなかなか出来ないと思います。もしかしたら、僕がまだまだ新米獣医師だからかもしれませんが・・・
しかし、ほっておくと急性の症状が出てくる事があります。
アジソンクリーゼといって、重度のショック状態に陥る事があるのです。この状態になって初めて副腎皮質機能低下症と診断がつく事も多いでしょう。
これはどういう状態になるかというと、アルドステロンがないことによって、血液中のナトリウムが減少し、それに伴って体の水分も減少します。つまり重度の脱水状態に陥ります。また、カリウムが増加しますので、心臓に影響し不整脈が出たり、ひどいと心停止状態になります。通常は急に立てない、意識がないなどの死にそうな状態になります。
ある意味特徴的といえば特徴的ですが、なかなか恐ろしい状態になってから初めて気付くことにもなりえます。もしかしたら助からないかもしれません。
では、このように診断がつけづらい病気ですが、どうやって診断するか。
一度、アジソンかも?と思えれば診断はつけやすいのですが、そこにたどり着くまでが難しいです。
まず、アジソンかも?と思うには、上記のような症状があり、血液検査をしてみて上記のような(特に低ナトリウム高カリウム)があると疑えますね。
でも、これだけではまだ疑えるという範囲です。
確定診断を出すために特殊な検査をします。
それが『ACTH刺激試験』といわれるものです。
ここでもう一度登場のこの図。
ACTHとありますね。副腎皮質刺激ホルモンです。これを使った検査です。
具体的には、まず一度採血をして血液を採っておきます(A)。そして、ACTHの製剤を注射します。つまり、注射で副腎にホルモンを出せと命令を出すわけです。そして、注射後1〜2時間でもう一度採血をします(B)。(A)と(B)の血液中のコルチゾールの濃度を測って、正常なら(B)はコルチゾールの濃度が高いはずなんですが(高すぎてもいけません)、アジソンの場合は、(B)のコルチゾール濃度が低いのです。典型的には測定限界以下、つまりほとんどないという結果が返ってきます。
このように、ちょっと時間のかかる、ややこしい検査をして確定診断にたどり着きます。
さて、残りもわずか。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
治療方法は・・・?
実はこれ、診断がつくと比較的簡単。いや、簡単といっちゃうと語弊がある。
考え方としては簡単。副腎皮質から出るホルモンの量が少ないので、それをお薬で飲ませてあげればいい。これだけのことなんです。
でも、そういってしまえば、本当に簡単に思えるかもしれませんが、個々の子それぞれに必要なホルモンの量が違い、薬の微妙な量の調節が必要です。
副腎皮質から出るホルモンはアルドステロンとコルチゾールの2種類。両方足りなくなる事もあれば片方だけの事もある。足りなくなっているものをお薬で補充してあげます。
通常、お薬は次のようなものが使われます。
@フロリネフ、コートリル、DOCP
これらは全てアルドステロンの代わりとなるお薬です。
ちゃんとお薬の量が決まれば、非常によく反応して、病気であるのを忘れるぐらい元気になったりもします。
しか〜し、欠点が・・・
フロリネフ・・・値段高すぎ。これは別にあまり使わないお薬やからって、獣医が高く売りつけているわけではありません。原価が高いのです。具体的な値段を書くことは出来ませんが、かなり高い方のお薬になります。
なぜそんなに値段がネックになるのか。治るんならいいじゃん。
実はこの病気治りません。僧帽弁閉鎖不全症と一緒です。
治る、治癒するという事は、その先はお薬を飲まなくてもいい状態になることですが、この病気は基本的に少なくなったホルモンをお薬で補充しているだけなので、お薬を飲まないと、体の中のホルモンの量は減ってしまいます。お薬で維持しているだけなのです。
つまり、一生お薬を飲まなければならない病気なのです。
だからこそ、お薬の値段がかなりのネックになるのです。
1週間とか、1ヶ月、1年でもいいです。飲めば治るって言うのならいいですが、一生お薬が必要となると、一生高い薬を買い続けなければならない。治療方法を説明する側としても、なかなかお薬の値段は言い出しずらいです。大体1月にいくらぐらいかかります、と説明するのですが、それがこの先何年も続くのですから・・・
あと、DOCPって言うのは注射薬で、25日毎に注射すればいいらしいのですが、これは日本では手に入らないお薬なのです。個人輸入も出来ないので、実際問題日本では使う事は出来ません。
コートリルに関しては・・・すいません、僕自身使った事がないのでわかりません。
Aプレドニゾロン
こちらはコルチゾールの代わりとなるものです。
これは必要な子もいれば必要でない子もいます。
B塩
薬と言っていいものなのか分かりませんが、僕の印象的にはある程度効果はあるように思います。
この病気になると、体の中の塩分が低くなるので、それを補うためにフードに少し塩を混ぜます。これは賛否両論あるようなので、絶対必要というわけではないでしょう。
アジソン病、お薬の値段が高かったり、量の調節が難しかったりとハードルはありますが、お薬をちゃんと飲ませれ、また他に併発症などがなければ、通常はお薬を飲んでいれば非常に良好な生活が送れます。
お薬を飲んでいれば本当に『治ったんじゃないか?』という錯覚に陥るぐらいよくなる事もある病気なので、ついお薬を減らしたり飲まし忘れたりという事も出てきます。でも、あくまで、足りないホルモンを補充しているから良好な生活が送れるのであって、お薬がないとまたホルモンが足りなくなっていきます。そこのところをしっかりと忘れないでください。
さて、どうでしょう?少しでもアジソンの事について理解するのに助けになりましたか?
ここがおかしいとか、このところもう少し教えてとかありましたら、メールや掲示板で教えてください。出来る限りご希望に添えるように頑張りますので。
早速質問が入りましたので、それに対する回答です。
うんうん、当然の質問ですね。
『ステロイドホルモン』と言われるものは
糖質コルチコイド(コルチゾール)の方だけで
電解質コルチコイド(アルドステロン)は
『ステロイドホルモン』ではないのですか?
とすると、プレドニゾロンはステロイドだけれど
フロリネフや、コートリルはステロイドではないのでしょうか?
小次郎は発病してから8ヶ月間、プレドニンだけを
服用していました、調子が悪くなってきて、コートリル
に変え、それからプレドニンは服用していません
それでコントロールが上手く行ってるという事は
小次郎は、コルチゾールが少しは出ているという事でしょうか?
まずはステロイドホルモンとはなんなんでしょう。ステロイドホルモンとは、一般的には糖質コルチコイドの事を指します。
アトピーの治療やリュウマチの治療で使うステロイド剤って言うのは糖質コルチコイドのことです。
しかし、厳密にはステロイドとは糖質コルチコイド、電解質コルチコイド、そして性ホルモンが含まれます。
これはどういうことかというと、まずはホルモンとは構造から『ステロイドホルモン』と『タンパクホルモン』に分類されます。
これは単純に構造の違いです。ホルモンの構造の中に『ステロイド環』と言うものが含まれているかどうかの違いです。働きや吸収のされ方の違いもありますが、ひとまずここでは置いといて。
と言う事で、厳密には電解質コルチコイド(アルドステロン)もステロイドホルモンです。
と言う事は、フロリネフやコートリルもステロイドなんですね。一般的にステロイドと言えばプレドニゾロンやデキサメサゾンなどの糖質コルチコイド作用が強いものをさすのですが、厳密には電解質コルチコイドもステロイドに分類されます。
そして、小次郎くんのコルチゾールはというと・・・
厳密にはやっぱりACTH刺激試験をやってみないとわかりませんが、おそらく『出ていない』か『少ししか出ていない』と言う状況だと思います。
では、なぜプレドニンがなくても調子がいいのか?と言う疑問が出てきますね。
実は、コートリルにもフロリネフにも、多少の糖質コルチコイド作用があるのです。
また、逆にプレドニンにも多少の電解質コルチコイド作用もあります。
糖質コルチコイド作用 電解質コルチコイド作用 プレドニゾロン 強い 弱い コートリル 普通 普通 フロリネフ 弱い 強い デキサメサゾン 最強 なし DOCP なし 強い 上の表をご覧ください。
コートリルにもフロリネフにも、強さの違いはあれ糖質コルチコイド作用もあるのです。
通常アジソン病になると、両方のコルチコイドが不足してくる事が多いので、両方のお薬を飲ませる必要があるのですが、その不足の具合などによってプレドニゾロンが必要でない場合もあります。
特に小次郎くんの場合、コートリルはフロリネフよりも糖質コルチコイド作用が強いので、プレドニンがなくても上手く維持できているのだと思われます。それよりも、コートリルで維持ができていると言う事は、逆にアルドステロンのほうが多少出ていると考えてもいいかもしれませんね。コートリルはフロリネフほど強いアルドステロン作用がないので。
ちなみに、DOCPは糖質コルチコイド作用がないですね。アメリカでしか手に入らないみたいですが、この薬の場合はプレドニゾロンが必ず必要みたいです。
どうでしょう?わかりました?
まだまだ質問がありましたら、どうぞご遠慮なく。
さえさんのおかげで僕も勉強になります。